
バス通りの歩道を走っているとベンチの横にひっくり返っている70歳ぐらいのおじさんがいました。浮浪者か酔っ払いのようにも見えたので、私は「見て見ぬふり」をして通り過ぎました。ところがその10分後、折り返してまた同じ場所を通ると、そのおじさんが同じ格好でひっくり返ったままではありませんか。今度はほっておけません。よく見るとベンチの上にコンビニで買ってきたばかりらしいパンや飲み物が見えました。
「だいじょうぶですか」と声をかけると、黙って手を差し出されました。ひっぱってあげてやっと地べたに座ることができました。言葉があまりはっきりしなかったのですが、どうも気分は悪くないのだけど足が悪くて起き上がれないのだそうです。抱え上げてベンチに座らせてあげようと思いましたが、私の力では持ち上がりません。
四苦八苦していると、犬の散歩で通りかかったおばちゃまが「どないしたん?家どこ?家の人呼んで来てあげる」と言ってくれましたが、おじさんはどうも一人暮らしのようです。「ちょっと待って、犬を置いてくるから」とおばちゃまは行かれました。「どうしたらいいかなあ」と思案していたら、また通りかかったウォーキング中の女性が「どうしました?」と声をかけてくれて「ベンチの方を寄せたらいいわ」とベンチを引っ張って寄せてくれました。それでなんとかふたりでおじさんをベンチに座らせることができたのです。
おじさんは手を振って「ありがとう」と言いました。家はすぐそこなので少し休んだら帰れるというようなことを言われていました。10分間(ほんとうはもっと前からかもしれません)ひっくり返っていたおじさんのみじめさを思うと、往きに声をかけてあげなかったことを後悔しました。そしてその間だれも助けてくれる人がいなかったのです。ひとりで声をかけるのには少し勇気が要りますが、必ず周りの人は助けてくれることもわかりました。おじさん、あの後ちゃんと家まで帰れたかなあと気になっています。